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「あ、ちょっ、……ちょっと待って。 道野さん、あなた、吉川さんのこと好きなんじゃなかったの?」 あまりにも態度の豹変した私に慌てたのか、城田さんが少し中腰になって呼び止める。 「好きじゃありません」 あんなキツネ。 心の中で語尾に付け加えながら、そうきっぱりと言った。 早く外に出たい。 もう帰らせて。 私は細かいお金が無かったので、千円札をテーブルの上に置き、軽く城田さんに会釈をしてから入口に向かった。 無理に背筋を伸ばして、ツカツカと歩き、外へ出る。 昼下がりの土曜日、大通りを行き交う人は多い。 あの角を曲がるまで、耐えろ、私。 自分に言い聞かせながら通りを足早に歩く。
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