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まだ息が切れている私は、小さく肩を上下させながら、吉川さんを見る。
さっき傷付いたこと、社長の前で偽装交際に乗ったこと、その前にあんなキスをされたこと、なんだかいろんなことに対する自分でも収拾のつかない感情が、走ったことで乱れた頭の中を一層乱れさせた。
でも、とりあえずは当面の目的を果たさねばと思い、私は乾いた唇を開く。
「か……、鍵を……」
「あぁ、気付きましたか」
カツ……、と綺麗な靴音を響かせながら、小路をこちらへ向かってくる吉川さん。
「あ……」
今更ながら、本当に今更ながら気付いた。
何度、こういう手にひっかかるんだ、私は。
だって、言うタイミングなら、さっきだってよかったはずだ。
気付かなかった私も私だけど。
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