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周りの社員はみんなそれぞれの話で盛り上がっているから、他には漏れていないけれど、隣の吉川さんには確実に聞こえている。 ……というか聞いている。はず。 そう思って再度チラ見をすると、吉川さんもこちらにスッと視線を向けたから、私は慌てて目を逸らした。 というか、さっきの今で、恥ずかしさが容易く舞い戻ってくるし、心拍も狂う。 「いやぁ、でも、キミだったんだね、吉川君のお相手は。 どうりで」 「社長」 「お? あぁ、吉川君。 戻っていたんだね。 ちょうど今、彼女と」 「空いていますので、おつぎ致します」 いつもの淡々とした表情と冷静な所作で、社長に綺麗にお酌をする吉川さん。 まずった。 非常にまずった。 この立ち位置、いや座り位置の気まずさ、そして同時に、やっぱり痛んでいる私の胸の奥。 利用されていたことを、改めて再認識する辛さ。
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