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道野結月に、次会うまでに考えておいて欲しいと伝えてから、1ヶ月経った。
今日は早めに残業を切り上げて、足早に駐車場へと向かう。
現在夜7時過ぎ。
昼に、彼女の会社へ赴き、いつものように精査を済ませると、思ったとおり彼女の顔に“お断りしよう”と書いてあったので、先手を打って、半ば無理やり疑似交際を認めさせ、今夜の食事を取りつけた。
ここまで必死になっている自分が笑えるが。
「吉川ー。早いね、今日」
エレベーターを降り、靴音の響く床をツカツカと歩いていると、正面のドアから、顧問先を巡回していた高迫がちょうど戻ってきたところだった。
「あぁ、お前は遅くまでご苦労様」
「どーも。つーか、いつも残業をいとわない吉川が、なんでそんなに急いでんの?」
「……いいだろ。お前に逐一報告する義務はない」
「あ。その言い逃げは女だね」
高迫の横を通って外へ出ようとすると、顔だけひねって、真横にきた俺を見やる。
「当てようか?
道野……だったっけ?あの経理だろ」
「……」
「当たりだね。
吉川、こういう時は黙るから分かりやすい」
にっこり笑ってそう言う高迫。
「……お先に」
この男の勘の鋭さには舌を巻くが、取り合わずに歩みを再開すると、
「城田さんを断るいい口実ができたね」
と、背後から言葉を投げてくる高迫。
「……」
俺はその言葉に、再度足を止めた。
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