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ハンカチを忘れたのか、手の甲で目元をゴシゴシ擦る道野結月。
彼女の心の内は、手に取るようにわかる。
城田歩美が抜けたことで、急にふりかかってきた自分のキャパシティーを超える仕事の内容、量、責任に、身動きが取れなくなっているのだ。
自分一人では本当にどうにもならなくなった時の一番の解決方法は、素直に周囲に助けを求めることであるが、それができる同僚はいなかったのか、いなければ、なぜ俺に相談はなくとも質問ひとつできなかったのか。
そして、なぜ、人前でそこまで無様な泣き方ができるのか。
次々出てくる根本的な疑問に、呆れを通り越して滑稽さすら感じるが、彼女があまりにも子どもみたいな泣き方をするものだから、以前は渡すのをためらったハンカチを、気付けば自身のスーツのポケットから取り出していた。
「今日は一度も使用していません。
それで拭いて、早く泣きやみなさい」
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