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土曜日。
「はい。……はい。そういうことです。
また明日、S社の社長に確認を取り、税務調査の対策を立てますので。
はい。報告は以上です」
S社の駐車場。
薄暗い車内。
ポツポツと、雨の滴がフロントガラスを打つ。
「あ、所長。
申し訳ないですが、今日はこのまま直帰してもよろしいでしょうか?」
「はい。……はい、ありがとうございます。
お疲れ様です」
携帯を切るや否や、眼鏡をかけ、エンジンをかける。
そしてサイドブレーキを戻す前に、もう一度携帯の画面を見た。
……着信は、無い。
それを確認すると、急いで車を発進させる。
「……」
心の中で舌打ちをしている自分がいた。
なんで、彼女の電話番号を聞かなかったのかと。
正直言って、道野結月がもし来ていたとしても、すでに帰っているだろうと思っていた。
それでも、ハンドルを握る手とアクセルを踏む足に力が入るのは、なぜだろうか。
雨が次第に本降りになってきて、公園の駐車場に着く頃には、約束の時間から1時間近く過ぎていた。
彼女の姿を公園の駐車場を出てすぐの歩道に見つける。
不謹慎ながら、焦りよりも安堵とほのかな喜びの方が勝っている自分がいる。
……が、傘もささずにびしょ濡れだということに気付き、すぐに車から降り、彼女の腕を握った。
「乗ってください」
「嫌ですっ!」
案の定、不機嫌極まりない道野結月。
俺の手を振り払おうと、腕を強い力で離そうとする。
でも、離すわけにはいかない。
「きちんと説明しますし、あなたの平手打ちも受けます。
このままでは風邪をひきますから、とにかく乗ってください」
「やっ――」
「乗りなさい」
ごねる彼女を無理やり車内に引き入れる。
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