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「……ふ」
「なになに?
何見て笑ってんの?」
「うわっ!!」
休憩所で、音もなく急に高迫がケータイを覗き込んできたので、慌ててポケットにしまう。
「ハッ。“うわっ”って。
吉川のそんな声、初めて聞いた」
アハハハ、と笑いながら、自販機でパック牛乳のボタンを押す高迫。
落ちてきたそれを取り出し、振り返りながら、
「一瞬見えたけど、女、写ってたね」
と、意味深な笑顔で言ってきた。
「……違う。見間違いだろ」
「誤魔化さなくてもいいよ」
まるで旦那の浮気を、弱みを握ったとばかりに余裕げに追及する妻のように、高迫はクスクス笑いながら、ストローで牛乳を飲み始めた。
ここまでパック牛乳が似合わない男はいないが、既に見慣れた光景だ。
「ゆづちゃんでしょ?それ。
何?本気になっちゃったの?」
「仮にも顧問会社の社員を、そんな風に呼ぶな」
「仮にも顧問会社の社員に手を出して、利用しているのに?
それ、今夜の社長との会食で見せる写真でしょ?証拠として」
「……」
無言で互いを見据え、しばらく沈黙を作ると、高迫は音を立てて牛乳を飲みながら、
「おー、こわ」
と、わざと首をすくめた。
「やっぱ本気でハマっちゃったんだ?」
「……本気ではない」
まだ……違う。
彼女がどんなに興味深く面白くても、可愛くて仕方なくても。
やはりどこかで、心から踏み込み切れない何かが邪魔をしている。
でも、だからと言って手放すつもりはない。
矛盾を抱えながらも、勝手は十分に承知で、俺は期待している。
彼女に与えられる自分の変化に。
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