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どのくらいの時間だっただろうか。
十分な息継ぎを許さぬまま、何度も唇を重ねては角度や深浅を変え、彼女が抵抗を緩め始めたとき。
近づいてくる靴音に、ようやく彼女を解放した。
同時に背広から自宅の鍵を取り出して、キーケースごと彼女のジャケットのポケットに忍ばせる。
いまだに涙目で色香を含んだ瞳に、不思議そうな色を幼くのせる道野結月。
こんな中途半端な状況で、このままフェードアウトされると困るから、半ば賭けのような気持ちで、
「帰りに」
と囁いた。
「ゆづちゃん、はっけーん」
「……」
ちょうどその時、角を曲がってきた男の姿と声に、重度の頭痛と眩暈。
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