23

22/34
前へ
/34ページ
次へ
席に戻ると、道野結月が社長にお酌をして話していた。 正直、先程のことがあったから、彼女が俺との件について社長に物申すのではないかと少し案じたが、彼女はそのようなことはせずに、表面上努めてこちらに合わせてくれた。 本物の彼氏が数メートル離れたところにいるにもかかわらず、こちらを全く見ずとも無理して社長に笑顔を作っている彼女に、俺は感謝より先に、何か言いようのない虚無感を抱いた。 手を伸ばせば触れられる距離にいるというのに、先程まで深い口づけを交わしていたというのに、社長からの俺との結婚に関する問いに、『追々、そういう話をしていければ』と答えているというのに……、 何か薄い膜が視界と思考を遮っている。 彼女が席に戻ってからも、俺は何を話し、何を食べ、どのくらい飲んだのか、酔いとは別のところで、記憶には留まらなかった。    
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3992人が本棚に入れています
本棚に追加