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「……あ」 そういえば。 鍵。 数歩歩いたところで、道野結月に無理やり口づけをした直後に渡したキーケースのことを思い出す。 人のことは言えないが、多分、彼女のことだからすっかり忘れているのだろう。 先程も何も言ってこなかったし。 「……」 鞄を開け、一番手前の内ポケットを探ると、金属の冷たさが指に触れる。 スペアは持ち歩いているから、正直、今すぐなくても困りはしない。 ……が。 気付いた道野結月はどう思うだろうか。 慌てふためき、俺が困っているはずだと思い悩んだ末、返しに来るはずだ。 「ふ……」 ……皮肉なものだ。 少し前まで口説くつもりで忍ばせたものなのに、今となっては、何の意味もなさない、ただの手間を取るだけのものになってしまった。
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