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「では、また月末に」
「……」
悟られぬよう冷静を装った声に、何も反応しない道野結月。
「道野さん。多分もう下にタクシー来ていますから」
「……」
わずかな理性が他の何かに浸食されていく感覚に、多少声色が硬くなってしまう。
先程からずっと無言でたたずむ彼女のポケットに1万円札を入れるも、やはり何も反応がない。
戻した手が、彼女に触れたいと宙に浮いたまま。
確定された後悔に目隠しをしてでも、腕を引き寄せて、全てを奪ってしまいたいと訴えたまま。
俺は小さく下唇を噛んで、心の中で舌打ちをした。
「帰ってくれる?惚れた女性を家に入れたまま、何もしない自信がないから」
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