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それが今では、その自覚を嫌というほどさせられた。
俺は、目の前の女にどうしようもなく溺れているただの男だ。
けれども、ただ好きだと言うだけで彼女を手に入れられる権利なんて、ひとつもない。
なぜなら、彼女には今……。
「笹原さんみたいに？」
「……」
彼女には今、交際相手がいる。
どれだけ愛を伝えたとしても、彼女がどれだけそれに応じたとしても、その事実が揺るがない限り……。
「だからお付き合いしているんですね、彼と」
ここまでの熱に侵されたような衝動を、自分が発する言葉で無理やり鎮静させていく。
「……」
何も答えない彼女。
囲む膝で頬杖をついていた腕をゆっくりと伸ばし、その手で彼女の顎を支え、唇にまで伝った涙を親指でぬぐった。
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