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「あ、の……」
「泣くことで、男が優しくするのが当たり前だって思っていますか?」
「そんなこと……」
彼女を見下ろしながら、ぼんやりと絵里のことが頭に浮かんだ。
「残念ながら、私はそんなにできた人間ではありません。
女の涙は嫌いなもので」
絵里を、その相手の男を、ずっと軽蔑してきた。
軽蔑することで、直近の記憶を無理やり過去へ追いやり、意識的に遠ざけ、終わったことだと割り切ってきた。
その嫌悪のおかげで、彼女のことを忘れることができたのは事実だった。
「好きだ、って言われれば、誰でもいいんだ?」
でも、成就した先に永劫の幸福など約束されていないと悟りながらも、目の前のものを欲しいと思う衝動を、嫉妬と独占欲による一過性の自棄を、今、この身は確かに訴えていて。
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