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「さようなら」 玄関の暖色系の灯りが、靴を履き終えて顔を上げた彼女の顔を照らすと、即座に別れの挨拶をした。 「さ……」 擦れた声で返そうとする彼女は、言葉を続けられずに、俺をじっと見つめたままで立ちすくむ。 そういう顔は反則だ。 少し垂れた眉が、わずかに潤んだ目が、微かに震えた唇が、俺にとってとてつもなく都合のいい解釈をさせるから。 あの時に想いを自覚していれば、とか、自覚せずとも、いいように言いくるめて拘束しておけば、とか、笹原祥太がいなければ、とか。 無意味な“もしも”が、俺を一層惨めにさせるから。
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