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……にしても。
さっきまであんなに険しい顔をして俺につっかかってきていたというのに、なんという無防備かつ嬉しそうな顔なのだろうか。
このまま横にいてこの顔を眺めているだけというのは、あまりにも拷問だ。
「……道野結月」
横たわる彼女の体の傍らに座る自分の重みが、ギシ、とベッドに軋んだ音を立てさせる。
廊下から入ってくる仄暗い照明に照らされて、寝言の代わりに規則的な寝息を立て始めた彼女からは、もちろん返事はない。
「起きて」
呼びかける擦れた声とは相反して、俺の右手の親指は彼女の赤みのさした柔らかそうな唇をなぞる。
「……起きろ、道野結月」
静かな部屋に響くその声は、体重を移動させたことによるベッドのスプリング音よりも小さかった。
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