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「……っと。ごめん。思わず」 固まってしまった私を見て、春人は、いけね、と舌を出す。 「では。失礼いたします」 横の吉川さんが軽く会釈をしてそう言ったことで、ハッと我に返る。 なんてことを、なんてタイミングで言うんだ、バカ春人! って、今はそんな怒りは置いといて。 ダメだ。こんなの。 こんなふうに誤解を与えたままじゃ。 吉川さんは既に玄関に背を向けて、軒の下で一旦閉じていた傘を差しかけている。 私は顔と体は硬直しているものの、脳内ではオタオタアワアワしながら、玄関と外の狭間でフル回転で頭を働かせる。 でも、待って。 お母さんが間近で見ている。 春人もいる。 何て言えばいいの? どうしたら、吉川さんに――。
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