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その声を聞いた途端、全身の細胞が騒ぎ出したかのような驚きと胸の高鳴り。 多分、私は部長と全く同じことを考えている。 雨の音でドアを開けた音に気付かなかったのは置いといて、……なんで? どうしてこんな時間に吉川さんがここへ? 「何をされているのですか?」 凍ってしまいそうなほど冷ややかな声とともに、湿った靴音が近付いてくる。 私はまだ、体を起こせない。 「い、いや……、道野が仕事熱心なもので、残って指導をしていたら、バランスを崩して倒れてしまって、今、手を差し伸べていたところでして」 「酒臭いですが」 しどろもどろで、なんとも苦しい言い訳を並べる部長を、一刀両断する吉川さんの声。 「え……と、た、確かに。ホントだ。 誰でしょうね?まったく」 「こんな大雨の日に、女性社員一人に仕事を押し付けて遅くまで残業させ、自分は飲んでいたのですか?」
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