26

16/38
前へ
/38ページ
次へ
「いや……、はは……」 「挙句……」 止まった靴音。 私と部長がいるところまでいらっしゃった吉川さんが、いまだ尻もちをついたままで固まっている私を、部長の頭越しに目で捉えた。 あ……、目が、合った……。 雨の音がうるさいはずなのに、私にとってその瞬間は静寂だった。 いつものスーツ姿。 でも少し濡れた髪と肩。 運転するときしかつけていない眼鏡をかけたまま、冷ややかなキツネ顔をもっと鋭くしたような表情。 高い位置から見下ろされて、これまた迫力二倍。 「……何を、されました?」 「いや、だから吉川さん、道野は転んだだけで」 「あなたには聞いていません」
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3828人が本棚に入れています
本棚に追加