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「道野さん」
先程から表情を変えない吉川さんに、名前を呼ばれる。
その一言だけで、嘘をつくな、と言われているのが分かった。
私は、先程部長に言われた“自意識過剰”という言葉を思い出しながらも、ゆっくりと口を開く。
「嫌なことを……言われました。
触られて、それを突っぱねて転んで、……また触られそうになっ」
「藤谷部長」
私の言葉を最後まで聞かずとも理解したらしい吉川さんは、恐ろしいほど尖った視線をゆるやかに部長に向ける。
「は、はい」
「道野さんを帰しますが、よろしいですか?」
「はっ!?
何を言っているんですか?彼女はまだ仕事が残っていて」
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