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「立てますか?」
ケホケホとわざとらしく咳をしている部長を素通りし、こちらへ数歩近付いた彼に、ハッとする。
少し前屈みになって、差し伸べられた右手。
顔は笑っていないけれど、相変わらず冷酷なままだけれど、私はようやく肩から力が抜けた気がした。
と、同時に、新たな緊張感と照れが襲ってくる。
温かい手で引き上げられ、目線が吉川さんにより近くなると、変なソワソワ感とホクホク感に心をこちょこちょされているような気分になり、なんだか彼の方を見れない。
……あ。
そして、すぐに離された手に、胸がツキリと痛んだ。
さっき椅子でぶつけた足の痛みまでぶり返した気がした。
「送りますので、準備を。
残りは貴方がしてください。貴方が指示した仕事ですよね?藤谷部長」
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