26

21/38
前へ
/38ページ
次へ
「そ、そんなこと言っても、私はパソコンが苦手で」 私を見た後、振り返ってそう言った吉川さんに、及び腰の部長がすがるような目で訴える。 「あと、何をすればいいのですか?道野さん」 「え?……あ。もう入力は終わっていて、一回チェックしてるので、もう一度チェックして確認してから出力しようと……」 「だそうです。よかったですね」 まるで棒読みで感情のこもらない声を落とす吉川さんに対し、 「しゅ、出力だけなら、すぐに、ほら、道野、な?」 と、部長は凝りもせずに私に助け船を求めてくる。 ダンッ、と机の一番下の引き出しを蹴る音に、「ひっ」と肩を上げる部長。 ついでに私も。 「印刷ボタンくらい、自分で探してください」 私は後ろにいるから表情は見えないが、軽く首を傾けてそう言った吉川さんの顔は、部長の凍りついたような目と、「……はい」という蚊の鳴くような声から簡単に想像がついた。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3828人が本棚に入れています
本棚に追加