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部長一人を残して廊下に出ると、私の前を振り向きもせずにツカツカとエレベーターの方へと進む吉川さん。
私は、手に持ったバッグを肩にかけながら、小走りで後に続く。
送る、って言ったよね?
間違いじゃないよね?
っていうか、何より……。
「あ……、あのっ」
ちっちゃなパニックが続いている私は、エレベーターの前でようやく立ち止まった彼の背中に、勇気を振り絞って声をかける。
「なんで、こんな時間にここに来たんですか?
何か用事でも……」
「……」
エレベーターの下へのボタンを押した吉川さんが、ゆっくり顔を半分だけ後ろへ向ける。
このたった数秒。
心拍数、ハンパない。
外の雨の音と同じくらいのリズムで、私の心臓を打っている。
「大雨警報が出されています。
このビルの前を通りかかったら、まだここの照明がついていたので、貴方を送ろうかと」
「え……」
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