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「……失礼。 上司からの指示なら、断れないのも無理はないですね」 そう言って、押されていなかった1階のボタンを、私の顔の横を通った彼の右手が静かに押す。 「……」 ゴク……と、生唾を飲んだ音を聞かれたかもしれない。 私は、先程から目の当たりにしている吉川さんの意外な一面の数々に順応できず、一言も返せないまま、心臓の音だけをバクバクさせていた。 吉川さんを見ると、強く射抜くような視線は外され、少し疲れたかのように壁に肩を寄りかけている。 お互い、無言。 ふわっとエレベーターが移動する独特の感覚に、そしてこの密室という特有の空間に酔ってしまいそうだった。
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