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「夜分に失礼します。
道野さんの仕事関係の者です。
この雨ですし、足も痛めているようなので、送らせていただきました」
「そうなんですか?
すみませんね、わざわざ」
玄関の照明を浴びて、頬に手を当てながらそう言う母の顔は、キラキラしている。
吉川さんを上から下まで視線で何度も往復し、私の方をチラチラ見ながら、何か含みのあるような満面の笑顔。
いくら今まで私に男の影が皆無だったとはいえ、あからさま過ぎて、こっちが恥ずかしい。
「あれ?
自転車を押して送ってくれた男と違うんだ」
ちょうどその時、玄関の正面にある階段を偶然下りてきた春人。
……の一言。
「……」
一瞬、この空間の空気が、ピシリと凍った。
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