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「消しゴムっ!!」
急に大きな声を出した私に、軒の下で傘を差して車に戻ろうとしていた吉川さんが足を止め、ゆっくりと振り返る。
「消しゴム忘れていませんかっ!?私っ。
吉川さんの家に、ありませんでしたかっ!?」
「……ありましたが」
小降りになったものの、わずかな沈黙を雨の音が縫って、この場面をなんとも間の抜けたものにさせる。
「今から取りに行ってもいいですかっ?」
あぁ……。
後ろ、振り向けない。
お母さんと春人の顔、見られない。
ドラマのような理想的な流れなんて、もう諦めた。
滑稽で、かっこ悪くて、恥ばかりで、バカみたいで……。
これが、私の身の丈だ。
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