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『では、道野さん一人で職場に残っているんですか?』 「えっ!?」 急に私の名前が出てきたものだから、大いに慌ててしまった。 き、気付いてたんだ!?私って。 いや、気付くよね普通は。 頭の中でアタフタしながら、 「そ、そうです。 今日中に終わらせなければいけない仕事があって、残業で……」 と、説明する。 『……』 少し間があく。 この室内に一人ポツンと座って背中を丸めて受話器を耳にあてている私を、ザーッという外の酷い雨音が包んだ。 『そうですか』 ……あ。 “頑張りますね”とか、“大丈夫ですか?”とか、あいもかわらず優しい言葉を期待していた私は、その淡々とした声に、内心ものすごく拍子抜けする。 ダメだ、私。 やっぱり人間すぐには変われないんだな。 額を押さえて自分を恥じ、下唇を噛んだ。
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