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『いえ、その日は他の予定も詰まっていますので、その件については後日また連絡します』
「は……あ、そ、そうですか」
ホッとしたのか残念だったのか、少し複雑な気持ちになった。
――と、その時、吉川さんの後ろの方で、
『吉川、この件だけど……。
って、あ、悪い、電話中か』
と、近づいてくる聞き覚えのある声が聞こえた。
『では、失礼します』
その声を受けて、即座にそう言った吉川さん。
直後に、ツー、ツー、ツー……と、規則的な音が耳に響く。
「え?」
切れた!?
不意を突かれて、茫然とする。
雨の音が一際大きく響いて、間抜けな私を浮き彫りにした。
「えー……」
次の瞬間、倍速でしおれる花のように、くたりとデスクに突っ伏して、受話器を戻す。
高迫さん……、やっぱり邪魔したいんですか?
今回は明らかに偶然だとは思うが、心の中で恨み言を漏らした。
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