エピローグ

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「この領収書が見当たりませんが」 「この仕訳、貸借が逆です」 「前々回に、指摘したはずですが、ここ。 修正されていません」 電卓を見ずに速打ちし、元帳を流れるようにめくりながら、キツ……吉川さんが淡々と指摘を繰り返す。 「……はい。……すみません」 月末の研修室。 経理チェックをしてくれている彼に、ひたすら謝り、メモをしていく私。 あれ?先週末の吉川さんは夢だったのかな?と思うほど、今までと変わりなく、甘さなんて全然加わっていないような彼をチラリと見て、私は、いやいや仕事中だ、と頭をブンブン振って自分を律する。 あー……、でも……。 あの手が、あの唇が……私に触れて、あの凍るような目にも艶が灯って……。 「道野さん」 「はいっ!!」 「終わりました。 訂正箇所は、こことここと……」 ぼんやりうっとりしていた私は、吉川さんの声に起立しそうなほどかしこまって、ありがたい丁寧なご指摘を一つひとつ確認する。 あぁ、まだまだだな、私。 そう思いながら、必死に吉川さんの説明を聞いた。
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