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「簿記……やっぱり落ちてました」
コーヒーを運んできて、吉川さんの前に出しながら、先日ネットでの発表を見た私は、正直に報告する。
「そうですか」
角砂糖を2個、静かに落としながら、吉川さんはスッとこちらを見た。
「次回……、もう一度頑張ろうと思います」
「いい心がけですね」
ゆるりとコーヒーをスプーンで混ぜながら、ゆるりと笑う吉川さんは、やっぱり学校の先生みたいな言葉をかける。
でも、心なしか、なんだか嬉しそうだ。
私はその手がカップの持ち手を持って、ゆっくりと口に運ばれていく様を目で追う。
コーヒーに角砂糖を入れて飲む吉川さんを、もう男らしくないなんて思わない。
むしろ、彼の意外性を目の当たりにするたびに、心がほんのり温かくなるような気がして、顔がおのずと綻ぶ。
私は、知っているんだ。
一見無口で冷ややかそうな彼の中にも、甘さが溶けているってことを。
ちゃんと私が浸透しているってことを。
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