4662人が本棚に入れています
本棚に追加
「へへ……」
「……」
思わずにやけてしまうと、コーヒーをすする吉川さんが、無表情をこちらへ向ける。
「何か?」
「――いえっ」
私はピンと背筋を伸ばして、緩んだ顔を慌てて戻した。
うーん、やはり業務時間中の吉川さんは、隙がない。
公私混同しないところは素晴らしいし、見習うべきなんだろうけれど、なんとなく……なんとなく寂しい気がする。
「……では、これで」
カチャ……と空になったカップをソーサーに下ろした吉川さんは、静かに席を立つ。
私はいつものように、急いでドアの方へ駆け寄り、彼より先に開けるべく、ドアノブに手をかけた。
最初のコメントを投稿しよう!