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「……っ!!」
ノブを掴んだまま、3センチ程開いたドアがパタンと閉まる。
私の極々背後から伸びてきた吉川さんの右手が、私のそれに重なって、ノブを引いたから。
彼の腕時計の秒針の音がすぐ近くから聞こえ、その速さに負けないくらい、心臓が早鐘を打ち始める。
「今夜、あいてる?」
反対側の斜め上から降ってくる、囁くような声。
「はっ、はいっ。
あいてる予定がありますっ!」
緊張のあまり、日本語がおかしくなった。
その狼狽ぶりにクスリと笑った吉川さんは、
「じゃあ、この前渡したスペアで家に入って、待ってて」
と、髪の上に唇を寄せながら言った。
「しょっ、承知しましたっ」
「ん」
急に切り替えられず、かしこまった返事をして振り返った私に、斜め後方から顔を傾けてすかさず唇を重ねる吉川さん。
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