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エレベーターが開き、ビルの1階のエントランスへ出る。
夜7時半。
年末が近いということもあって、今日は仕事が終わるのが少し遅かった。
ヒールの音が響く床を歩き、エントランスを出ると、長身の二つの影。
今日は風が強くて、彼らのコートがパタパタと揺れている。
「あ」
顔を見ずに横を通り過ぎようかと思ったが、あまりに存在感のある二人のオーラに、思わず声が出てしまった。
吉川さんと、高迫さん……だ。
「お……お疲れ様です」
気まずいことこの上ないが、無視するわけにもいかず、立ち止まって会釈をして、また歩を進める。
「お疲れ様です、中園さん。道野さんはまだ残っていらっしゃいますか?」
すれ違う間際に吉川さんに声をかけられ、再度立ち止まる羽目となる。
高迫さんは笑っているようで、怒ってもいるような、どちらともとれる表情。
早くこの場を離れたいんだけど……。
「はい。もうすぐ下りてくると思います」
「そうですか。ありがとうございます」
あ、なんとなくだけれど、表情が柔らかくなったな、吉川さん、と思った。
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