番外編① 前編

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「ごめん、悪いけど、中園のこと、そんなふうに見れない」 分かっていた。 そして、彼が誰に想いを寄せているのか、彼よりも早く気付いていた。 だって、入社してから、ずっと見てきたから。笹原さんのこと。 私は小さいころから、ある程度のことはそつなくこなしてきたし、特に不自由さを感じたことはなかった。 家族の仲もよく、友達にも恵まれ、ありがたいことに言い寄ってきてくれる男性も少なくなかった。 でも、小さいころにずっと欲しくてようやく買ってもらえたクマのぬいぐるみは、妹が泣いて欲しがり、あなたは他のものをたくさん持っているから譲りなさい、と親に言われて手放して。 高校の時に初めて自分から好きになった人は、いつの間にか私の親友とつきあっていて、私の気持ちを知らなかったその親友からは、葵はモテるからうらやましい、といつも言われていて。 結局、何もかも手にしていると、幸せで順風満帆な人生に見られても。 ……本当に欲しいものは手に入らないんだ。    
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