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「何も……なかったんですよね?」
「あ。いいよ。どっちでも」
なんでもないことのようにベッドから立ち上がり、伸びをする高迫さん。
よかった、下はジャージだ。
じゃなくて。
いえいえいえ、こちらとしては、どっちでもはよくない。
唖然としている私を振り返った彼は、朝の爽やかな光を後光のように背に浴びて、
「でも、約束は守ってね。互いに呼んだら応じるって約束」
と、美しすぎる笑顔で言う。
「……は?約束?」
変な汗が流れる感覚。
ヤバイ。覚えていない。
よりにもよって、こんなタチの悪すぎる男相手に、私は何を……。
「じゃなきゃ、昨日の話、言っちゃうかも、俺」
「昨日の話って、なんですか? ……って、それより、言っちゃうって、だ、……誰に?ですか?」
「さあ?それを聞かれて中園さんが一番都合が悪い人に?」
「……」
記憶がない、ってことほど、そしてその時のことを教えてもらえない、ってことほど怖いものは無い。
彼の飄々とした、でも楽しそうな顔に、私はしばらく固まったままだった。
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