番外編① 前編

5/17
前へ
/35ページ
次へ
「何も……なかったんですよね?」 「あ。いいよ。どっちでも」 なんでもないことのようにベッドから立ち上がり、伸びをする高迫さん。 よかった、下はジャージだ。 じゃなくて。 いえいえいえ、こちらとしては、どっちでもはよくない。 唖然としている私を振り返った彼は、朝の爽やかな光を後光のように背に浴びて、 「でも、約束は守ってね。互いに呼んだら応じるって約束」 と、美しすぎる笑顔で言う。 「……は?約束?」 変な汗が流れる感覚。 ヤバイ。覚えていない。 よりにもよって、こんなタチの悪すぎる男相手に、私は何を……。 「じゃなきゃ、昨日の話、言っちゃうかも、俺」 「昨日の話って、なんですか? ……って、それより、言っちゃうって、だ、……誰に?ですか?」 「さあ?それを聞かれて中園さんが一番都合が悪い人に?」 「……」 記憶がない、ってことほど、そしてその時のことを教えてもらえない、ってことほど怖いものは無い。 彼の飄々とした、でも楽しそうな顔に、私はしばらく固まったままだった。    
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3956人が本棚に入れています
本棚に追加