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「ごちそうさまでした」
いまだ起きぬ斜め前の彼女をチラリと横目で見て、小さな声でそう言い、シンクに食器を下げる。
どうしたものだろうか。
無理やり起こすのも酷な気がする。
「みち……」
彼女の目の前の椅子に座り直し、その髪の毛をひと筋すくう。
「結月」
サラサラと重力に従順に落ちるその髪を眺めながら、優しく声をかけてみるが、やはり返事はない。
今度は少し力を込めて頭を撫で、再度その名前を呼ぶ。
「へへ……」
すると、目を閉じたままの彼女が、口元をゆるませて、微かに笑った。
そして、かけていた俺の背広をぎゅうっと握り、
「……よ、しかわ、さ……」
と、至福の顔でその生地に頬ずりをした。
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