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(嫌だな)
逆島断雄は表情を変えずに考えた。断雄が生まれた逆島家は、代々進駐官のトップを輩出する四近衛(このえ)家のうちのひとつだった。長男の継雄(つぐお)も、次男の延雄(のぶお)も、この高校の卒業生だ。
家族の命により、自分も入学したけれど、断雄本人は人と争うことが苦手な大人しい性格だった。志望はすでに決定している。日乃元の文化を現地に宣伝、慰撫(いぶ)することで、進駐政策をスムーズにすすめるのが仕事となる文化進駐官だ。
老人の挨拶(あいさつ)は続いていた。
「よいか、貴様らは今のところ、能無しの無駄飯食らいだ。授業料はタダ、寮費もタダ、食費もタダ、今、貴様らが着ている礼服もタダでくれてやった。それどころか、今日より貴様らには皇国から給料が支払われることになっておる。この望外の好待遇がどういう意味かわかるか」
老軍人は大音声(だいおんじょう)を張りあげた。
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