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…あ、わわ…っ。
ふと先生の顔が頭を過り、頬が熱を持ち始めるのを感じて慌てて頬杖をついて隠す。
「…なんか、ムッとするんだけどっ」
赤くなる私の前で、唇を尖らせた百花が丸めたノートでスバルをボカリと叩いた。
「わ、こら、やめろよっ」
「もー!」
いつものようにじゃれ合ってる二人を横目に、反対側に座っている美香ちゃんが頬杖をつきながら和歌集に目を落として、パラパラと捲る。
「…恋の歌が多いわよね。
あ、…私はこれが好きだな」
言って、軽く首を傾げてそっとを指を差した。
綺麗な長い髪がサラサラと肩から零れ落ちる。
伏せられた憂いのある潤んだ瞳に、思わずドキッとしてしまう。
…美香ちゃんって、ほんとに綺麗だなぁ。
そう思いながら、私は薄く透明のマニキュアが塗られた指先に視線を向けた。
『うき身をば われだに厭う 厭へただ そをだに同じ心と思はむ』
( ふがいない自分が嫌いだ。だから、あなたもこんな私を嫌ってください。私を愛することができないなら、その嫌うという感情だけでもあなたと同じでありたいのです)
きゅっ、と胸が苦しくなる。
「切ない歌だね…」
「…ん」
頷きながら髪を耳にかけて、美香ちゃんは顔を上げて私を見つめた。
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