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わざとちょっと呆れたように言って、パーカーを脱いで、ん、と私に差し出す。
下に着ているのは半袖のボーダーTシャツ一枚で、明らかに寒そうだ。
「いいよ、スバルが風邪ひいちゃう」
「いーの、俺は大丈夫だから」
ちょっと笑いながら、遠慮する私の肩に強引にパーカーを被せてファスナーを上げてくれる。
仕方なく袖を通して顔を上げると、彼は優しい目で私を見下ろして、よし、と頷いた。
パーカーの温もりとスバルの優しさで、心がじわじわと暖かくなっていく。
着せられたパーカーは袖も丈も長くて大きくて、リュックごと着ていてもまだ余裕があって。
…ぶかぶか。
なんだか恥ずかしくなって、私は長すぎて手の出ていない袖をプラプラと振った。
「ありがと…」
「ん、…相変わらずちっちゃいな、おまえ」
「スバルが大きくなり過ぎなのっ」
「ははっ」
ちょっと頬を膨らませて睨むと、彼はそっと手を伸ばしてぽん、と私の頭に置いた。
いつもと違って、頭の上に手を置いたままワシャワシャしないスバルを不思議に思って見つめ返すと、からかうように笑っていた顔からすっと笑顔が消えていく。
「…ほんと、ちっちゃいな」
呟くような声が響いた。
少し離れたところに立つ街灯がぼんやりと辺りを照らしている。
見つめる私を映して意思の強そうな瞳が戸惑うように揺れて、その奥で何かが炎のようにゆらりと浮かび上がった。
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