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先生にドアを開けてもらって助手席に乗り込むと、ふわりとシトラスの匂いがした。
いつもの先生の香りに、自然に胸がきゅうっと音を立てて窪む。
「夕飯、食べた?」
エンジンをかけながら、先生は前を向いたまま訊いた。
「はい、スバルのおうちでご馳走になりました」
「…そう。
じゃあ、このまま帰るね」
抑揚のない声で言って、エアコンのスイッチをカチリ、と入れる。
ここからマンションまではすぐだ。
きっと5分もあれば着いてしまう。
…もう少し、一緒にいたいな。
私はぶかぶかのパーカーの袖口をきゅっと握り締め、勇気を出して言った。
「先生は?
もし、まだだったら…」
「ん、俺も済ませたから」
「…そうですか」
心の中でため息を吐くと、がっかりが顔に出ていたのか、先生はクスッと笑ってわずかに目を細め、私を覗き込んだ。
「…唇、尖ってる」
「…と、尖ってませんっ」
恥ずかしくなって慌てて両手で口元を隠す私に、おかしそうに声を立てて笑う。
…う、もうっ。
ぷうっと頬を膨らませていると、
「…今日、ちゃんと勉強した?」
「はい、古文と英語と、…あと、数学も」
「ん、…いい子」
ゆっくりと手を伸ばし、そっと私の頭を撫でる。
「…じゃあ、ちょっとだけ寄り道して帰ろうか」
甘やかな瞳に真っ直ぐに見つめられて、またドキドキと胸が高鳴る。
嬉しくて何度も頷くと、先生はふっと頬を緩めてもう一度私の頭を優しく撫でた。
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