数式1

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車がゆっくりと走り出して、大通りに出てマンションと反対方向に進む。 先生が何も話さないから、私も黙って助手席のドアに体を寄せて、ぼんやりと窓の外を眺めていた。 対向車のヘッドライトや街灯がガラスに映り込んでは光の筋を作って後ろに流れていく。 暖まっていく車内の空気とオーディオから流れてくるゆったりした音楽が心地よくて、つい眠気を誘れてしまう。 …う、寝ちゃいそう…。 寝ちゃダメ…、と思いながら、私は込み上げてくる欠伸を噛み殺した。 「…浅田、起きてる?」 優しい低い声で呼びかけられてハッと目を覚ますと、いつの間にか車は停まっていた。 先生が体を傾けて覗き込むようにして私を見てる。 「起きてます…」 また寝てしまっていたことが恥ずかしくて、口元を拭ってもたれていた体を起こしながら答えると、彼はクスッと笑って私の頭を撫でた。 月明かりに照らされただけの薄暗い車内でも、先生の色素の薄いチョコレート色の瞳が甘く輝いているのがわかる。 優しい眼差しにドキッとして、目を逸らして窓の外に目を向けると、暗い夜の中の少し離れたところに白っぽい建物が見えた。 「…ここ、どこですか?」 「マハロの前の浜辺から灯台が見えたの、覚えてる?」 先生の言葉で、夏の終わりに二人で浜辺を歩いた時のことが頭を過る。 真っ赤な夕日がすごく綺麗で、海がオレンジ色に染まってキラキラと輝いていた。 その浜辺をぐるりと回った先、海にせり出すように見えた岬に灯台が立っていたのを思い出す。
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