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心臓がまだ高い音を立てて騒いでる。
先生はしばらくの間、優しく髪を撫でてから、シートにぐったりと寄りかかる私の腕を持ち上げてパーカーの袖からそっと引き抜いた。
だらり、と力なく落ちた手を先生の指が優しく撫でる。
「…大丈夫?」
運転席に戻り、おかしそうにクスクスと笑う先生から視線を逸らして俯くと、座席と私の背中に挟まれたスバルのパーカーが目に入った。
…あ、くしゃくしゃになっちゃう。
もちろん洗濯して返すつもりではいたけれど、どうしても気になって、私はなんとか体を起こしてノロノロとした動作で背中からパーカーを抜き取り、丁寧に畳んで膝に置いた。
ふと、寒い中を半袖で帰ったスバルの姿が頭を過る。
…風邪、ひいてないかな。
痩せ我慢している負けず嫌いな顔を思い出して、思わず口元が緩む。
「…何、考えてるの?」
抑揚のない低い声に顔を上げると、先生が運転席のウィンドウに頬杖をついて私を見ていた。
なんだか恥ずかしくなって、私はパーカーを撫でながら誤魔化すように言った。
「あ、いえ、別に…」
「…ん、そう…」
先生は興味なさげに短く返事をした後、シートから体を起こして、
「…ね、浅田」
囁くような甘い声で私の名を呼んで手を伸ばし、そっと頬に触れた。
温かい指先に、またドキン、と胸が高鳴る。
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