2人が本棚に入れています
本棚に追加
どれだけKOの山を築こうとも、その漠然とした 不安からは逃れ得なかった。
まるで、賽の川原で石を積み上げているような、 虚無感だけが膨らんでいった。
根拠の無い自信は、その怯えの裏返しに他なら かったのではあるまいか。
そして、とうとう、あのタイトル戦で……
雄二は、重い足を引きずるように、走り始めた。
よろよろと、覚束ない足どりで走る雄二の胸を、 様々な感懐が去来した。
(俺は……)
(俺は、なぜ走ってるんだ……)
(もう……ウンザリだ……)
(ボクシングは……もうウンザリだ……)
(紗季……)
(紗季を幸せにしたい……)
(いや、まだまだ……)
(まだまだ……闘うぜ……)
(俺は……アホウだから……)
(俺は、根っからのアホウだからよォ……)
(悪いけど……紗季……)
(俺は、まだまだ闘うぜ……)
混濁した想いを内包したまま、雄二は、よろよろ と走り続けた。
苦悩に歪んだ顔に光る双眸からは、涙がとめどな く流れている。
行き交う人々は、そんな男を気にかける暇もな く、忙しげに歩き去っていく。
人々は誰一人として、知るよしもなかった。
この男がかつて、燦然と輝きを放つ太陽であった ことを。
自然の摂理に則り、太陽は、かつての輝きを失 い、沈もうとしていた。?
最初のコメントを投稿しよう!