第1話 緑風

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待ちに待ったーーーー と言うか、居ても立っても居られない心境で迎えた運命の2月12日。 地元の駅で待ち合わせし、私と同級生2人は3度目の南高校前の駅に降り立つ。 この合格発表で、今日からの生活は大きく変わる。合格したのであれば、それはそれは万歳三唱の上のスキップスキップで、辛かった受験生も終了となる。 自宅に帰ったら、私はまず参考書類をゴミ箱に投げ入れる遊びを始めるだろう。 不合格の場合、一般入試に向けてもうしばらく受験生活が続くことになる。 学校に続く坂道を登った。 相変わらず潮風が容赦無くビュウビュウと吹いてゆく。夏は爽やかに感じた風も、流石に2月ともなれば寒さを煽る存在でしかない。 それでも、磯の香りを吸い込めば 私の頭は微熱を出した様に僅か上気した。顔が熱くなり、鼻水が出そうになる。 この風は吹くたび、私を不思議な気持ちにさせる。 合格発表は、よくある番号が貼り出されるようなものでは無かった。合格発表といえば、そういうものだと思っていた私は、少し残念だった。 「あったー!」みたいなの、やりたかったのに。 受験番号順に受付に並び、封筒を受け取る。封筒の中に合否書類が入っている、とのことだった。 私たちは、全員受け取るのを待って、せーのっで一緒に封筒を開いた。 「あ!」 「わあ!」 「楠本さん、やった!」 結果は、私だけが合格で 残念ながら2人の紙には不合格の文字が見えた。 嬉しい!と思ったのも一瞬の事で、素直に喜べない・・・というか、 ハッキリ言って気まずい。 2人は、推薦は南高校を受験するが一般入試では 一つランク下げた公立高校と私立を受けると言っていた。 つまり、この合格発表がだめだった場合 一緒に南高校に通う事はないのだ。
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