45人が本棚に入れています
本棚に追加
来る時は気づかなかったが、
すぐ向かいの教室の前のドアが開いていた。
講堂に戻るついでに、何気なくドアの中を覗いてみた。
教室自体は、中学のそれと殆ど変わらないものだった。
違うところをあえて探せば、教室の後ろに並べてあるロッカーがスチール製・・・くらいなもので、そこだけやけに新鮮に感じた。
教室の中にも生徒の姿は無かったが、所々の机の上には生徒のものと思われる荷物が置いてあった。
きっと部活に来ているのだろう。
特に何にもないや。
再び講堂に足を向けた時、
私の前髪を何かがかすって抜けて行った。
ーーーーーーーっ?!
振り返ると、教室の中の窓が開いていて、そこから勢いよく風が吹き込んできた。
白いカーテンが
バタバタと音が鳴るほど揺れてはためいた。
その風にはにおいがあった。
ーーーー海のにおいだ。
カーテンの向こう側には、
おそらく桜と思われる青々と茂った木々があり
そのさらに奥には、真っ青な海が見えた。
窓から吹き込む風は、止むことなく教室の中に流れ続け
私の立つドアから廊下へと抜けていく。
ああ、この学校は教室から海が見えるんだ。
潮の香りをめいいっぱい吸い込み、私はそんなことを考えていた。この窓から海を眺めて、
この潮風を浴びて、
この学校の生徒は、ここで高校生活を送るんだ。
捉えどころなく揺れるカーテンは、それ自体が生きているかの様で
ほんの短い時間だが見惚れてしまった。
潮風は、先ほど汗ばんだ身体を完全に冷やすほど涼しく爽快だった。
そして身体が冷やされるのに比例して、頭の芯がじんじん痺れて熱を持つ様な感覚に襲われた。
こんなにキレイなのに。
私しか見ていない。
最初のコメントを投稿しよう!