第1話 緑風

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熱にあてられた様になり ドアの前から動けなくなった私の耳に 「説明会を始めますので、空いている席に座ってください。」 という、マイクを通した声が聞こえた。 あっ! ヤバっ! 我に返り、すぐに講堂へと引き返す。ドアから離れて数メートルで、既に身体に風を感じなくなった。 なんとかギリギリ講堂内へ滑り込み、元いた席に腰をつける。 壇上の先生が 「本日はお暑い中、ご苦労様です・・・」と、説明会を始めていた。 慌てて席についた私に 「遅かったね」 と同級生が声をかけた。 「トイレ混んでて・・・」と返事をしたものの、私の頭の中は さっき見た教室のことでいっぱいだった。 別に海が珍しい訳じゃない。私の住んでいるところは、海に近い。 この学校の駅から、もう2駅進めば有名な海水浴場があるし 小さい頃から何度も行った。 地元から自転車で海まで行けないこともなく 実際、男子達はよくみんなで海まで遠征して遊んでいる。私も夏休み中に、友達と海に行く約束をしているし 今更海を見て、珍しく思うことなんてないはずなのに。 なぜか、あの教室の窓から見えた海が忘れられなかった。 と言うより、あの場所に高校生になった自分がいたら・・・という想像が止められなかった。 授業中 カーテンの隙間から滑り込む潮風 窓の向こうの海 ものすごく、心が惹かれた。 説明会はとりあえずキチンと受けたが、妙に落ち着かない私の気持ちは固まりつつあった。 この学校に行きたい。
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