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◆
激しく体を回転させてド派手に倒れた柘榴を見下ろした伊藤は告げる。
「ふん。なるほど、明日菜。これがお前の言っていた佐藤柘榴という生徒の能力か――」
「うん。面白いでしょ?こいつ……」
「確かに異能だが。うちには必要ないだろう?
とりあえず、あとで便所の前にでも転がしてくるとしよう――」
?
柘榴が目を覚ますと、そこは男子便所の入り口だった。
――ええと……たしか俺は生徒会室に行って――
そこまで記憶を思いだそうとしていると、激しい頭痛で頭を押さえた。
その手を見ると、そこには真っ赤な血がこびり付いている。
「な。なんじゃこらぁぁぁぁ」
一人で派手に驚いていた柘榴だったが、トイレの鏡の前に行き自分の姿を確認した。
前髪にごっそりと血がついている。
一体どうしたらこんな大怪我を負うことができるのだろう。
このまま帰るにはあまりにもスプラッタな自身の姿に、柘榴は仕方なく水道水で髪を洗う。
今は何時頃だろうか……辺りはすっかり暗くなっていた。
トイレの薄明かりが妙に寒気を感じさせる。今は五月とはいえ、まだまだそんなに気温は高くない。
冷たい水道の水で髪を洗った柘榴は濡れた髪を掻き揚げた。
タオルなんて当然持ち合わせているわけもなく。無造作に前髪をオールバックにした彼は、頭部の傷口を探す。
柘榴は、「やっぱりか……」とつぶやいた。
大量に出血した柘榴だったが、不思議と頭の傷口はどこにもなかった。
髪の毛にこびり付いた血を洗い流してしまった柘榴は、どっからどうみても健康な男子学生だった。
しばらく鏡に映る自分の姿を眺めていた柘榴は思い出す。
「――そうだ。メガネ。あいつにぶっ飛ばされたんだった」
柘榴は自分が先程まで倒れていた場所に置いてあった学校指定の鞄に目を向けた。
中身を確認しなくても自分の物だとわかる。
柘榴はびしょびしょになった髪のまま、自分の鞄を無造作に持ち上げるとそのまま歩き出す。
向かった先は、生徒会室――ではなく、自分の自宅である。
「あのメガネ野郎。今度会ったらあのメガネを叩き割ってやる」
柘榴は強気な口調で吐き捨てたが、あの副生徒会長と会うのはこりごりだった。
あの上から目線の嫌な奴。柘榴とは性格が合いそうにない。
――まったく。今日は散々な目にあったぜ、こういう日はさっさと家に帰って寝ちまおう。
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