人妻と、飛び魚と、 真夏の果実

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この「ロミオ」は、昔ながらの喫茶店で、ジャズが静かに流れ、オークルの調度品とステンドグラスのランプがレトロな雰囲気を醸し出す。 マスターは、ちょび髭を生やし、年中、カウンターの中でグラス磨き。 身だしなみにもうるさくて、給仕のバイトにも、白いシャツと黒いズボン(女はスカート)、蝶ネクタイ着用を義務付けた。 もちろん、すべて貸与品。 俺は必死に考える。 なんとか、マリエともっと深くなれないだろうか… 「お待たせ。この店自慢のティラミス」 あ、なんだ、俺。 なんでこんなぶっきらぼうな声が出てしまうんだ。緊張し過ぎだ。 「あら」 頼んでないのに、という視線。 「あ、全部俺の奢り。代金はいらない」 ほかほかと湯気を立てるティーカップの飲み物と、勝手に冷蔵庫から出したココアの粉をまぶしたケーキを、彼女の目の前に置いた。 「まあ、ありがとう。すごく美味しそう!」 子どもみたいな素直な喜び方。 そして、フォークの先に載せられた白いマスカルポーネが紅い薔薇の花びらのような唇の間に消えていく。 「あ…」 俺は、信じれないものを発見してしまった。
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