人妻と、飛び魚と、 真夏の果実

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そうしたら、やつは「馬鹿か、お前?」って、鼻の横に皺を寄せて笑いやがった。 うるせえ。間違えたわ。 篠田、お前みたいな筋肉馬鹿の男には、 単純な表現じゃないと、わかんねえんだろ? 俺は言い方を変えた。 「彼女の春の陽射しみたいな笑顔はだね、年齢を問わず男をとりこするのに充分なのだよ」 篠田はまだ笑ってる。 「…恋は盲目だね」 「ああ。愛さずにはいられないのさ」 俺は、外人みたいに首を竦めてみせた。 恋は盲目。 その通り。だから、俺は紅い薔薇がぎっしり詰まった大きな花束を抱えて、恥ずかしげもなく駅前通りを歩けるんだ。 「高校生1枚」 観たい映画ではないけれど、俺はチケットを買った。 小さな映画館だから、ロビーに入るとすぐそこに売店がある。 「あら!」 マリエは、人懐こい笑顔を見せる。辛子色のチャイナ服みたいなユニフォーム。 この姿を見れるのも今日限りだ。 「これ」 俺はバサリと、マリエに薔薇を手渡した。 「…どうして?」 大きな目をさらに大きくする。 「なんでって…最後だから、お疲れ様の意味だよ」 「いやだわ。気を使わないでよ。 こんなにたくさんの薔薇、高かったでしょう?」 マリエの頬が赤く染まる。
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