人妻と、飛び魚と、 真夏の果実

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人妻に恋い焦がれ、夢中になっていた俺でも? 丸ごと受け止めてくれる? 俺は目だけで訊く。 小沢は、またコクン、とうなづいた。 それなら、 頼むよ。 もっと、俺を夢中にさせてくれ。 飛び魚にしてくれよ。 「……夏美」 名前で呼んでみた。 「夏休みになったらさ」 「うん」 「海に行かねえ?2人で」 涙のついたままの夏美の顔が、ぱっと輝く。 「え、本当?2人で?」 「そ、2人で」 俺は、隣の空いたブランコに腰を下ろし、冗談めかして言う。 「そ、の、か、わ、り」 人差し指を横に振った。 「お前、ビキニ着て来いよ」 「…え、やだ。なんで?」 夏美にいつもの笑顔が戻った。 「嫌ならいいけど」 「ビキニなんて持ってないもん。…でもお、買っちゃおうかなあ」 可愛らしく、首を傾げる。 「買いに行くの、付き合うよ」 俺は立ち上がり、夏美の前に立ち塞がった。 夏美が無言で俺を見上げる。 目の奥にある怯えと期待の感情。 俺は身を屈め、リップクリームを塗った彼女の唇に、素早く自分のそれを押し当てた。 ビキニに包まれた真夏の果実を見たら、俺はマリエを忘れるだろう。 「人妻と、飛び魚と、真夏の果実」 fin
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