ベテルギウスの幻影

4/11

15人が本棚に入れています
本棚に追加
/96ページ
誰もいなくなったシアター。 ここがなくなったら、私はどうすればいいんだろう? 真っ暗になったスクリーンを見つめながら、途方にくれていたその時。 重たいドアーが開いて、人が入ってきた。 匂いだけでわかる。 この「オデオン座」の支配人、城島雅治だ。 彼はいつもラベンダーの香りを纏っている。 ゆっくりと、はじの階段を降り、スクリーンの中心に立った。 座席側の方を向いて、目を閉じる。 目に映っていた情景を脳裏に焼き付けるように。 この小さな映画館との別れを惜しむように。 寂しいよね。私も切ないよ。 出来ることなら、あなたのそばに行って、あなたを抱き締めてあげたい。 でも、出来ない。 私の手は生体を掴むことが出来ない。 ホログラムの映像のように、すり抜けてしまう。
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加